HOME > News > 結晶・非結晶系及び化合物太陽電池の劣化について

結晶・非結晶系及び化合物太陽電池の劣化について

2020/12

浅川太陽光発電所
所長 浅川 初男


 太陽電池の使用を、30年余り続けていて、太陽電池の劣化を経験する機会を数多く遭遇しみてきましたが、いずれの場合も、当初は、製造工程での経験不足が目立ちましたが、時間経過とともに経年劣化を、同時に体験しながら、共に成長してきた素材探求と製造工学、劣化は防ぐ事のできない通り道で、進化の道筋の上にあり、特に、新規製造アイデアや新材料を利用したプロセスや製造工程では、失敗と成功の両者は、共に避けては通れない道筋であり、研究段階では、成功する事が第一の使命になりがちで、安全性やコストは二の次になるが、製品づくりでは、安全とコストは、両輪でなくては、製品として長く続く物にはなって行かず、短期に、淘汰される物になって行くが、更に経験を重ね、より良い製品を製造することと、コストダウンを使命として、完成品となり、商品として市場に出て、やがて経済システムの一翼を担う商品となって行く。
 これらの過程で、商品の品質向上と製造責任が求められ、JIS規格が生まれ、さらに、幾多のプロセスを経て、商品・製品に製造責任として、考え出された規格が、ISO 9001で、当初は、品質管理=製造責任と考えられていましたが、経営管理思考が進むに従い、品質の維持・向上の為になってしまい、製造責任が棚上げになってしまった。
結果として、次に生まれた考え方が、ISO 14001で、こちらは、環境に与える悪影響を考えたシステムで、海外企業などは、企業の社会的責任(CSR)に関する取り組みをどのように行なっているかの指標となっており、この二つの規格を持つ事が社会的責任であり、製造責任をも補完すると考えられていた。
しかし、曖昧さはさらに広がり、次なるビジネスチャンスをと模索して
現在では、次の世代に向けてと題して、持続可能な社会システムづくりをとの、この考え方がさらに広がり、世界規模でのSDGsに繋がっている。

社会が、ある一定の粋に達すると、次の社会システムを必要として、多くのシステムが試行錯誤されて行くことになります。
日本の匠・ドイツのマイスター制度が残ると良いと思うシステムです。

太陽電池の劣化とは、何か ?


 太陽電池の劣化とは、太陽電池の出力が低下することを示しているが、どんな物でも、長年使用していると、次第に必要としている機能が低下して行きます。
これは、経年劣化又は、耐久性劣化・使用時間による耐久性(摩耗等)劣化などを現し、金属での疲労による金属疲労劣化(振動・温度変化)とは異なる物です。
どちらかと言うと、金属の錆による劣化と近い部分があるかもしれません。
ここでは、主に、その他の劣化について、お話を進めて行きます。

○太陽電池における劣化とは
太陽電池には、構造上の劣化があり、大まかには、①外部接続配線部分と②太陽電池を保護している部材部分③太陽電池配線部分④太陽電池部分に大別することができます。

  • 外部配線部分(設置高1メートル以内)

こちらは、接続点に主に発生します。
大電流部の接点部分については、大気中の水分により熱による結露が必ず発生し、接続部部に大きな負担になり錆が発生いたします。
実際例の写真は、このようになります。
屋外配線箱に20年設置例
各配線端子の端子取り付け部分に、結露による錆が発生し、絶縁板を超えて錆が成長し、短絡手前までに至った例です。こちらの設備は、一般電気設備扱いなので数年間、定期的点検が行われておらず、誤作動した為、安全点検時に発見され、その後設備を一新して現在に至っており、設置後27年経過したが、現在も順調に発電をしております。

○接続点でのミス
こちらは、直流配線を太陽電池から制御盤までに引き込む配線接合点で発生した事故です。
接合箱の中に置いて、配線接合部に発生した結露により短絡し、接合箱を焦した例です。
原因は、接合部で使用した圧着端子の耐電圧を考慮しないで、安易に配線した結果、結露が発生し、短絡に陥ってしまったものです
圧着端子部分に結露防止の措置が不十分により結露
結果として、ボックスとの間でアークしてしまい
放電が生じ集電盤のヒューズが墜ちた。
これらは、直流工事と交流工事の違いを理解しえない
電気工事士の経験不足から引き起こされた。


○対策として
対接触面の多い圧着端子に変えるとともに、結露防止に耐電圧のある封止材を用いて、温度差による結露の発生が生じても、圧着端子部分に流入しないようにした。
アーク溶接機のトウーチまでの配線が何故太いか理解できる電気工事士は上記のような接続ミスは起こせないはずです。怖さを理解しているから。
経年劣化としては、太陽電池からのケーブルを、被覆管を用いず、束にして引き回している配線を太陽光発電初期には見かけることが多く心配になりました。
太陽光発電の高まりと共に、法整備が進むと共に、法解釈が電気工事士にも理解され、当初は屋内用配線管を使用していた例を見ましたが、現在は屋外用の配線管に切り替えてある例を数多く確認しています。

  • 太陽光発電の必要性と共に、一般家庭の太陽光発電設備も、電気工事的には、パッケージ化が進み、安全対策が設置器具や太陽電池から電気工事士に伝わり、安全対策がなされ、一つの製品として市場を形成できたことをうれしく思います。
  • では、太陽電池の本体についてはどうでしょう。(CIS)


今回紹介する太陽電池は、シリコン基盤の上に電極を配置するタイプの単結晶・多結晶型ではなく、複合材料型のCIS太陽電池を取り上げて、その特徴と経年変化についてお知らせするものです。
このCIS太陽電池は、銅・セレン・イリジュウムを材料にして、積層しながら焼き固める ? 的な理解しかなく、その製造工程を確認して見ると、今までの太陽電池とはあきらかに製造工程が違い、まるでレンガを焼いているように感じてしまった。(私の主観的感覚なので、ご理解下さい)
はたして、どんな太陽電池が届くのかワクワクしながら量産品を待っていました。量産品を作り始めた工場関係者から漏れ聞こえてきたのは、中々思い通りに量産製品が作り出せなく、苦慮しているとしながらも、一部の完成品を手に入れることができ手元に届きました。
梱包を開封後驚いたのは、CIS太陽電池重い!!
同サイズの、他の太陽電池の倍以上の重さ! ほとんどが、
ガラスの重量であることを後に知る。
ガラスの厚みと取り回しに慣れるまで腰に注意が
必要になる。前もって、特徴を再確認できましたならば、追従試験をお願いしますとの要望なので、早速、実証実験を開始しました。
ある程度の予備知識として、電圧上昇が時間とともに上昇する ? を聞いていたので、太陽高度が一定になるように、実験設備を設置して、太陽電池に蓋(シャター)をして、1週間、同じ高度で、同じ時間暴露させ電圧と電流の変化を簡易試験装置ではありますが、計測した結果。・・・・経過日、日日と共に、突入電圧・電流の上昇を確認いたしました。
(実験回路に組み込んだコンデンサー凄い)
因みに、この実証実験装置は夜間組み立て、計測実験後、毎回放電とデジタル計測器を複数台購入しなくてはならなかったことと、1週間以上毎日同じ太陽高度で、計測しなくてはならなく、天候に恵まれないと、またやり直しを繰り返したこと。
実験後、かなり後で、この効果がアール効果と言われている ? を知ることになる。

  • 特徴と経年劣化

製造工程は、情報誌等で確認していたので、アモルファス太陽電池の構造に類似している部分があるので、経年劣化については、アモルファス太陽電池アレイの経年劣化が参考になるのではと予測。
アモルファス太陽電池の経年劣化については、近くの北杜サイト実証試験場のアモルファス太陽電池と自身の実験場でのアモルファス太陽電池の比較実験でおおよその感覚が掴めていたので、容易に比較することができました。
アモルファス太陽電池の劣化は、太陽電池周囲の防水対策不備の部分や長時間雨水等が留まる場所からの水分がアモルファス層への侵入により始まることを確認(北杜サイト・自身の発電所)していたので、劣化の特徴を把握するのには容易につかめました。
自身の発電所では、設置ミスにより破損したアモルファス太陽電池を使用して露天暴露試験を実施していますので比較対象も容易に行えました。
こちらが、設置ミスにより破損したアモルファス太陽電池で、破損部分から水分が侵入しているのが明確に解り、その侵食の形態は、北杜サイトのアモルファス太陽電池での侵入形態に類似ており、容易に比較、対照できます。

ガイド配線に沿って、ナメクジやカタツムリが這い回ったような足跡になり、先端を確認するとシェル(貝殻)状に侵食しているのが特徴で、上記の破断面からの水分侵入でも同様の模様が確認できているので、明らかにこれらの侵蝕は水分による侵蝕であることが判断できる。

この状態になってくると、太陽電池の性能は低下して行き、かなりの電圧・電流が損失して行くことになります。

(北杜サイトでは、この侵食の様子が確認できるようになっています)

  • CIS太陽電池では、どのように経年劣化が発生すでしょう。

実際の写真を交えて説明させていただきます。
電極と電極の間に突然、点が現れ、等間隔で走っている電極線に向かって成長して行きます。①

こちらは、並行する電極線に沿って侵蝕が進む様子です。アモルファス太陽電池の水分侵蝕に似ていますが、シェル(貝殻形態)状の侵蝕ではなく、アメーバー増殖の進行過程に似ているように感じます。②
この現象は、設置太陽電池の一部分に、ある程度の集極が診られ、設置太陽電池全体面積のまばらに分散しているのではなく、集極しているので、製造工程での何らかの変化が作用しているのでは、とも考えられる。

こちらの写真では、判りにくいのですが、電極線に接して、侵蝕現象が進行しているのと、電極線に触れずに電極線に沿って侵蝕が進んでいる様子が確認することができます。また模様の出来方にも、ある程度のパターンがあるようにも見えます。③

こちらの写真では、侵食の様子が、電極線に接しながら進行している様子が確認できるのと、片側が電極線に接している場合は、その反対側が接触していない様子が確認できます。④(磁力線の影響が予測できる)


この写真の観察ポイントは、相対で侵蝕現象が発生していると、両側が電極線まで侵蝕が進むと、その反対側の侵蝕は、両側が電極線に接して侵食している電極線に対して、一定の間隔が空き侵食が進んでいないという点です。⑤
CIS太陽電池の配線は、直流配線で太陽電池の両端で±の極になっているので、磁力線の発生方向は同じはずですが、
これらの様子から、相対の配線に侵食が侵攻した場合は、磁力線の発生パターンに何らかの影響を与え、相対侵蝕が進んだ両側侵蝕線に対して、片側接合の侵蝕側からは、一定の間隔を開けて侵蝕が進んでいると思われる現象として捉えることが判断できるのではないかと考えられる。
これらの現象が進むに従い、この写真のように、CIS太陽電池の中央付近から、変色してその変色領域を拡大してきている。⑥
ここで、問題となるのが、写真のようなこの症状と、発生電力の変化が気になります。
当初、この症状による発電能力の低下が懸念され、症状の出た太陽電池を製造本社に送り、現象発生時における実際の発電能力について実証確認を実施したところ
発電能力の低下は、ほとんど診られず、正常に近い発電能力であり、継続使用については、問題なしとの実験結果をいただき、現在も発電を続けている。(経過観察中)
現象変化範囲についての比較対象物として、軍手を置いてみました。
これらの変化が、どのくらいで起きているかと言いますと、設置枚数2,500枚中の25枚ほどで、変化が見られ、この写真のように大きく、茶色に変色成長したのは、20枚ほど、あとは、成長過程のものが確認できました。
変色の色合いから、主成分の銅に何らかの変化が発生して、これらの症状が発生していることが予測でき、疑われるものとして、構造上から、水分侵入が第一番目に考えられる。(アモルファス太陽電池での経験)

  • 発電開始からの継続観察から

○ 注目点
⌘ アモルファス太陽電池では、周囲や放水不良の箇所からの水分侵入で、太陽電池中央部からの侵食現象は見られなかった。

⌘ アモルファス太陽電池電池では、侵蝕現象が見られてから、出力低下が発生している。
⌘ CIS太陽電池では、ほとんどが太陽電池の中央部から侵蝕現象が発生している。
⌘ CIS太陽電池では、侵蝕現象が、発生しても出力低下が見られない。

⌘ 一定箇所で集極場所で発生している。(同一ロット)
⌘ 同一ロットでも、発生していない太陽電池が大多数である。
⌘ ある程度の頻度で発生している。(同一ロットとは限らない)
⌘ CIS太陽電池では、全体発電能力の低下は見られず、設置当初の発電能力を維持している。
以上が注目すべき点です。

これらの事から、推測できるのは、ガラス下部接触面において、透過光に対して影響を与えない形での材質変化が形成されていると思われます。
アモルファス太陽電池では、水分の侵入による侵蝕痕の経路がハッキリしていましたが、CIS太陽電池では、侵入痕が不特定で、発生状況が中央部から発生しているので、ここに謎が残ります。
同一箇所でありながら、ロット数に関係なく現れている点と、発生部位が粗一致する点から、何らかの原因で、水分が分子レベルで影響し発生するメカニズムが存在しているのではと、予測している考え方もありますが、発電システム全体のCIS太陽電池に波及しないのはなぜか疑問が残ります。
この写真は、実際の設置状況で、北屋根に設置した写真(2020/2/)で、今回は、南北両屋根(同勾配)で、変色太陽電池現象が発生しており、使用しているインバータも一機で500kWを制御していますので機械・機器における影響によるものとは考えにくくなっております。


設置まもない2013年のCIS太陽電池の様子です。
上の写真と比べると、経年の劣化による輝きの違いがお分かりいただけると思います。
設置まもない鑑面の輝きを失っているが、発電能力の劣化を見せない、経年の汚れを纏った2020年の上下写真での比較。
7年の歳月が、感じ取れる設置状況写真となっております。

左右対称設置の様子です。
南北とも7度勾配で、ほぼ水平設置と考えてもよい条件で、設置いたしました。
屋根構造の違いから、全面南北同じ枚数とは行きませんでしたが、屋根の負担を考えた場合、同数に近い設置方法を採用致しました。

今回のCIS太陽電池の経年変化の中で、変色し始めの発生部位から、成長して行く途中経過を初期段階から捉えることができ、成長過程を記録することができたことは、他の太陽電池の経年劣化とは、全く違うプロセスで進攻するCIS太陽電池の特徴であると考えております。
このような経年変化を見せる太陽電池は、他の物質での変化と比較した場合、一番近い現象としては、錆の発生が似通っているのではないかと考えます。
これは、2015年に「防錆管理」Vo1.59No.10通巻700号記念特集号に掲載させて頂いた時に、太陽電池での錆と、太陽電池架台の駆体に置いて発生する錆について載せていただきましたが、当時太陽電池その物が錆びる(劣化)のには、太陽電池表面にプラスチックを用いた安価な汎用品にのみと考えていたので、気にもとめていなかったのが悔やまれる懐かしい原稿を思い出しました。

市販の太陽電池アレイは、表面が
プラスチックの透明皮膜で覆われ、紫外線によりプラスチック皮膜が光還元されボロボロになり数ヶ月から数年で使用できなくなる消耗品太陽電池では、当初から消耗品としての使用期間がありますので価格も安価で、一定の期間を過ぎれば商品価値を失っても問題はあまり発生致しません。

今回紹介している太陽電池は、固定価格買取制度の期間内に使用できなくなるような製品は、太陽光発電システムの根幹を揺るがす商品となり、当初、固定価格買取制度を導入した当時の政府の責任にもなり、太陽電池の製品としての品質を甘くした政府の責任は大きな問題として、考えられます。

今回のCIS太陽電池の表面変化は、設置後数年経って現れたが、太陽電池の性能としては、問題が発生していない状況下であり、この表面変化(プロセス)をどのように捉えるかにより、全く違ってくる。
この表面変化は、太陽電池そのものの内部において、確実に起きている化学変化で、CIS太陽電池としての発電を行っている中での変化であり、通常の太陽電池であれば、出力の低下や、表面温度の変化が発生して、何らかの障害が発生する事例に発展する現象です。しかし、それらが発生せずに発電を続けている事から見えてくる科学的検証が必要です。近い将、宇宙空間での太陽電池の使用を考えた場合に今回の現象プロセスを解き明かす事は、更なるCIS太陽電池の発展は勿論、他の太陽電池の発展にも寄与することが考えられ、まだ生まれて間もない太陽電池産業(20年余り)にとって、大きな研究課題の発見でもあると考えます。
発電効率の向上を研究して行く上で、今回の現象の解明が大きなヒントになると考えられるので、是非ともCIS太陽電池のこの現象を、ただの劣化現象(水分子の悪戯)として捉えるのではなく、そこで何が起きているのかを解明していただきたいものである。



後書き

今回の調査・研究に協力していただいた皆様にこの場を借りて、書面ではありますが、感謝と御礼をこめまして、CIS太陽電池の経年経過の報告と致します。
                  浅川太陽光発電所  所長 浅川初男